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VIDEO-ITを取り巻く市場と技術

2007年2月7日掲載

第23回 モバイル・マルチメディア放送の展望<その4>
    「次世代の通信販売番組?放送波を使ったダウンロード」

コラム執筆:株式会社エフエム東京 小田慎也
執筆者のプロフィール

この新たな放送サービスで一つのキーワードとなっているのが「ダウンロード」です。放送波を使った一斉同報型のコンテンツ配信を私たちは「ダウンロード」と呼んでいます。
通信の世界では携帯電話へ向けた「着うたフル(R)」などの楽曲配信に始まり、ビデオクリップや電子書籍まで様々なコンテンツがすでに配信されていますが、これらのコンテンツを放送波を使って一斉に多くの人へ配信しよう、というのがここで言う「ダウンロード」です。

メリットは通信コストがかからないので、サーバ側の負担も少なく済むことです。例えば多数のユーザがデータの取得をすることが予想されるような人気コンテンツは放送波で一斉に配信し、ニッチでレアなコンテンツは通信でオンデマンド配信する、というような使い分けが考えられます。

ただ、私が考える最大の特徴は「放送を見ながら(聴きながら)コンテンツをダウンロード」する事が出来る点ではないか?と思います。通信でコンテンツをダウンロードしている間は、終わるまでただただじっと待っていなければなりませんが(端末仕様によるのかもしれませんが)、放送波を使ったダウンロードは、ダウンロード受信中でも番組を楽しむ事が出来ます。これにより、多少時間がかかってもストレス無くダウンロード可能となります。

通信でダウンロードする場合は、自分のお気に入りの楽曲を膨大なサイトの中から探し出さなければいけません。サイトの導線が重要視されるのも当然です。ですが、放送ダウンロードの場合は、「今ダウンロードしていますからボタンを押して下さいね。」など、番組を使ってダウンロードの呼び込みをすることが出来ます。番組を聴いている人はボタン一つで自分の端末の中に楽曲がたまるのです。

ラジオというメディアは、番組で音楽を紹介して、気に入った曲を昔はCDショップで、今ではオンラインでも購入してもらう、というモデルで成長してきたメディアです。アフィリエイトの原点とでもいいましょうか。音楽業界と友好な親和関係の下成長してきました。これがダウンロードサービスの登場により、その場で、同じ端末上で、購入出来る事になります。新たな通信販売番組ともいえるかもしれません。

楽曲だけでなく、番組そのものを販売する、という、新たなモデルも比較的簡単に実現出来るでしょう。放送した番組をパッケージメディアにして販売、というのは既に行なわれていますが、コストの観点から人気番組でしか採算が合わないとも言われています。これが電子ファイルとして手軽にコストをかけずに出来るとなると、パッケージの製作コストや流通コストを心配せずに実施出来るので、トライアル的な試みも比較的容易でしょう。


図1:ダウンロード画面の一例。番組中の上記画面の右側、"購入"というボタンを押すと、
放送波からの楽曲データの蓄積を始める。(TOKYOFM提供)

技術的にはすでに完成しているものではありますが、実はそれ以外の面での課題が多いのも事実です。権利処理もそのうちの一つです。

通常、放送における楽曲使用の権利処理は、放送局の包括契約の中で処理されていますが、このダウンロードモデルはインタラクティブ配信である、という見方があります。これで処理しなければ権利元への還元が出来ないので当然の事ではあると思います。放送局がCDショップの役割をすると考えると判りやすいでしょう。

ところが、この考え方に反対する声もあります。「放送波を使っているのに通信の権利処理を適応するのか?」と、放送業界側には難色を示す声も挙がっていると聞きます。前述のように、現在放送局には事後申請の包括契約として処理している実績があるからです。それと相反するインタラクティブ配信の適応に議論が起こるのはいたしかたないところでしょうか。

私としては、例えば楽曲そのものを配信する場合と、放送局自身の著作物である番組そのものを配信する場合とで、ケースバイケースで分けて考えるべきものであると思います。"放送の波を使っているのだから包括契約"という考えは少々乱暴なような気がいたします。

2011年以降のマルチメディア放送、これまで「テレビ」と「ラジオ」という放送しかなかったところに、「データ放送」というツールが誕生して、さらに「マルチメディア放送」という制度が作られようとしています(現在、「携帯端末向けマルチメディア放送サービス等の在り方に関する懇談会」で議論されています)。日本の放送の歴史において、非常に大きな出来事であり、また、放送メディアがこれからの時代においていったいどうなっていくのか?という点に大きく影響する事は間違いありません。新たな<放送>の誕生に期待しましょう。

(コラム記事/ エフエム東京 小田慎也)

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